ニコニコ音楽とニワンゴの未来予想図

ニコニコ動画(RC2)の発表会以来、いくつかのブログや報告レポで「ニコニコ音楽」という言葉を見かけていましたが、どこのブログででも「詳細は企業秘密」ということになってて、まああまり話題になっていなかったようでした。なんとなく思うところがありつつもスルーしていた話題に関して、大変興味深いエントリがあったので今回はそれについて掘り下げてみたいと思います。

ニコニコ音楽ってなんだろう?

「ニコニコ音楽」という単語を聴いて自分が最初に連想したのは、「曲は作れるが動画作成ができない人のための音楽データ用アップロードサービス」でした。

ITmedia 「DTMブーム再来!? 「
nicovideo:keyword:初音ミク">初音ミク」が掘り起こす“名なしの才能” (2/2)」より引用:http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0709/28/news066_2.html

 「楽曲をアップしてみたいと思うけど、動画を作れないから……」と、冒頭の48歳男性は言う。ニコニコ動画はもともと、動画をアップするためのサイト。初音ミクの楽曲は、静止画と組み合わせてアップされていることが多いが、「『絵心がないから』と楽曲アップをためらっている人も多いのでは」。

この記事にもあるように、音楽のみをアップロードできる需要は相当に大きいはずです。動画作成っていうのはそれなりに面倒というか環境的敷居が高いのです。WindowsムービーメーカーでMP3となんか適当な静止画を使ってWMV作成→アップロードという手段が一番簡単ではあるのですが、一つ間違うとシークもできない不便な動画になってしまいますしそもそも誰しもWindowsXPユーザーであるわけではありません。それにやはり「動画に頼らず、音楽性一本で勝負したい」というのが音楽クリエイターの本音でしょう。「動画作ってる時間があったら、その分を音楽に注ぎ込みたい」というのも自然な感情かと思います。
映像クリエイターよりも、「音楽クリエイター」の裾野は広く、歴史も長く、奥も大変深いわけですから、どこにどんなすばらしい才能が眠っているかと考えると、せっかくニコニコ動画という作者と視聴者を直結するプラットフォームができているのに、「音楽は作れるが動画は作れない(敷居が高い)」という人をはじいてしまうのはもったいないです。

ということで、そういう「作者は音楽データのみをうpでき、視聴者はその音楽を聞きながらコメントを楽しめる」手段として、
「MP3をうpすれば、自動的に(またはユーザーが選択したパターンで)WMP見たいなエフェクト画像が合成されて動画として登録される」または「音声を音声のまま再生できて、背景が黒い画面のままコメントできる」
ような仕組みを提供するのではないかという大まかなイメージが、自分が「ニコニコ音楽」という単語を聴いたときのイメージでした。「音楽系クリエイターが参加する敷居を下げる」ことで、もっと優秀なコンテンツが集まり、もっと皆がニコニコできるようになるでしょう。

・・・とまあ、そんな風に考えていた時代が僕にもありましたが、吉川さんの書かれた記事を見て目から鱗が落ちました。自分はあくまで「ニコニコ動画機能拡張」視点で考えていたんですが、吉川さんは「ビジネスモデルの拡張」という観点からの大胆な予想をされています。

ニコニコ動画の本当の狙い?

Yoshikawaの出張所 「2007-10-20ニコニコ音楽への期待とドワンゴが権利管理団体になる可能性について」より引用(太字・色変えは引用者による)
http://nicovideo.g.hatena.ne.jp/Yoshikawa/20071020

 このニコニコ音楽ですが、予想できる内容としては、

1. ドワンゴ/ニワンゴがとりまとめ役になってCDを出す
2. ドワンゴ得意の音楽のダウンロード販売

あたりだと思います。

 別の視点でも見てみます。こうした無名の才能の作った音楽配信ビジネスが成り立つかどうかってことなんですが、これも最後はやってみたいと判らないと思いますがこれって仕組みを一端作ってしまえばあとは、その仕組みの利用回数に比例して中間マージンを得ることのできる「チャリンチャリンビジネス」なんで結構勝ち目はあるんではないでしょうかねぇ?

 ここまで考えて、実はもしかするとこの先に凄い宝が埋まっている可能性に気づきました。ドワンゴ/ニワンゴがこういったことをやると、その延長でドワンゴ/ニワンゴってもしかして著作権管理会社のひとつになるんじゃないかと!
(※引用者により略)
 例の記事で書いたようにニコ動が、今後もしネット上での作品制作のデファクトスタンダードになり、そのプラットフォームに簡単に使える権利料徴収機能(例えば登録時のクレジットカードで決済し権利者にもカード口座でペイバックするなど)がついていたら、どうなります?これってドワンゴ/ニワンゴがネット上で生み出されるコンテンツの権利管理の胴締めになる可能性を示唆していますね。今のネット通販におけるAmazonのポジションを得る可能性があるわけです。これって凄い利益が上がる可能性があるんじゃないかと、こりゃドワンゴの株を今のうちに買っておくべきか!

ニコニコ動画の機能拡張」という次元で考えていた自分とは全く別の視点、つまり「ニコニコ動画のビジネスモデルの拡張」という視点ですが、大変鋭いと言いましょうかさすがと言いましょうか、もしこれが本当に実現されるとすれば、この「ニコニコチャリンチャリンビジネル(以下ニコチャリモデル)」が本格的に回転すれば、日本の音楽・映像文化に本当の意味での革命が起きると思います。(権利管理の元締めというより、ライブハウスやら劇場やらの興行主といったほうが適切かな?)
ストリートミュージシャンのギターケースに小銭を「チャリン」と投げ込むモデル、それをうまいことニコニコ動画上に実装できれば、ストリートミュージシャンならぬ「ニコニコミュージシャン」、つまり「史上初の,本来の意味でのオンラインミュージシャン」が誕生するわけです。男性ならゆず系、女性なら川本真琴系といいましょうか、アコースティックギターで高らかに歌うような人や簡単なアップセットを使った簡易バンド形態の従来のストリートミュージシャンだけではなく、フルスペックの音楽演奏がオンラインストリートミュージックとして楽しめ、視聴者はシームレスに「チャリン」と小銭を投げ入れることができるわけです。
クリエイターと視聴者が直結し盛り上がるライブスペース「ニコニコ動画」、まさに革命といえましょう。

懸念材料は「ニコニコ動画の空気への影響」

ただ、吉川さんが述べているニコチャリモデルは、色々と複雑な問題を含んでいるでしょう。下手をすると、ニコニコの文化そのものを壊しかねない危険性をはらんでいる可能性があります。

ニコニコ動画「誰も金銭的に大きな得をしない」というお約束の上でコミュニティや空気が成り立っています。動画にしても、音楽にしても、もちろんコメントにしても、参加者は誰もそれによって金銭的な利益がないことが、ニコニコの最大の強みなのです。「大人の事情やお金のことは全く無関係に、クリエイターとしての情熱や力を邪念なく作品に注ぎ込める」という環境であるからこそ、クリエイターさんたちはニコニコに集うのだという分析をされている方は沢山いますし、自分もそのように考えているのですが、ニコチャリモデルは、その「場の空気」を決定的に壊しかねません。

またさらに懸念なのは、ニコチャリモデルは、ニコニコ動画最大の武器である「恐ろしく高速な表現の進化(作業の分業)」にブレーキを掛けかねないことです。
作業の分業による表現の加速的進化という現象はニコニコがまさに「才能を無駄遣いする場」であること、「それをやっても、誰も金銭的に儲からない」という状況だからこそなのは確かです。小飼弾さんの言葉を引用させていただきますと、「ウハウハは最大の罪」なわけですね。ニコニコへの投稿やコンテンツ作成が「才能の無駄遣い」じゃなくなる時、ニコニコの真骨頂である「進化の爆発的連鎖」が一気に停止しかねないわけです。

著作権の話もなおいっそう混乱することになるでしょう。極端な話、テレビの放送をうpしてそれに「チャリン箱」を設置して実際小銭が入ってしまったら、今までのニコニコ側の建前(運営もユーザーも)が全て崩壊します。ニコニコ動画の存在そのものを強制終了させかねません。「権利者から侵害クレームがきたら、それまでのチャリン金額を全額没収の上罰金さらに通報」なんてルールで運用しても、権利者サイドは絶対に許さないでしょう。今現在暗黙の理解を示してくれている人たちも、さすがに黙っていられなくなります。

ニコニコ動画最大の財産「西村博之」を使う?

そういう懸念はありつつも、吉川さんが提示された「ニコニコ動画の新しいビジネスモデル」のグランドデザインは、それに伴う懸念事項ゆえに切り捨てるにはあまりにももったいないアイディアです。宝の山どころか「コンテンツとアーティストと消費者と流通の世界を一変する革命的アイディア」とすら言っても良いかもしれません。上記で自分が考えた懸念事項は、逆に言えばそれらをクリアさえすれば世界が大幅に化けるということでもあります。「著作権問題のクリア」と「徹底的にクリエイターサイドからお金の匂いを消すこと」、この二つをクリアすれば、「ニコチャリモデル」は現実に上手く回りだすでしょう。

ニワンゴにはひろゆきという、唯一無二の「看板」があります。ニコニコ動画が今のような姿に進化できたのは、「ひろゆき」という顔の効果を決して無視できません。現在の日本がもつ最高の「顔」の一つといっても過言ではないでしょう。ネットユーザーには、ひろゆきがやることだからw」の一言で、色々文句を言われつつも大概のことは許されてしまう、そんな価値が彼にはあります。こういう方向の価値がある人間は、世界で見ても「スティーブン・ジョブズぐらいなもんなんじゃないでしょうか。
この「ひろゆき」の看板を上手に使えば、著作権問題はともかく「クリエイター周りから金の匂いを徹底的に消しさる」方策が浮かぶかもしれません。

そうなったとき、ニコニコ動画+ニコチャリモデルは、ネットに革命を起こすでしょう。