NECがスパコンの新機種SX-9を発表

一応「IT業界に潜んでる」というからには、ニコニコだけじゃないぞ、って言うところも見せておきたいわけでw

NECスパコンの新機種発表

NECやってくれました。やっぱりここは地力が違います。

ITmedia 「1コアで102GFLOPS NEC「SX-9」発表」より引用
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0710/25/news127.html

(太字化および色つけは引用者による)

NECは10月25日、ベクトル型スーパーコンピュータの新製品「SX-9」を発表した。1コアで102.4GFLOPSの新CPUを搭載し、最大512ノード時で最大839TFLOPSと、ベクトル型の世界最速を更新した。年間200億円の売り上げを見込む。
(引用者により略)
 メモリバンド幅は256Gバイト/秒に広帯域化。16CPUによる1ノード時で1Tバイトの共有メモリを搭載でき、総メモリバンド幅は4Tバイト/秒に達する。
 1ノード時の最大性能は1.6TFLOPS。SX-8の13ノードに当たり、設置面積と消費電力の削減につながる上、複数ノード時に必要な並列化が不要になるメリットもある。複数ノード時は最大128Gバイト/秒の超高速インターコネクトで接続し、最大512ノードまで対応可能だ。

839TFlopsってのは「理論ピーク性能」ですから(0.1024×16×512ですね)、実際に512ノードつなげたときの実効性能はさすがにもう少し落ちるでしょう。といっても、ベクトル機ということで実効性能がの落ち込みも少なそうですから、地球シミュレータの実績から言うとLinpackの実効性能700TFlops台前半ぐらいでしょうか(実効効率80%台後半で見積もってそのぐらい)、「Linpackは早くとも、大規模な流体シミュレーションやったら性能ガタ落ち」みたいな話にもならなそうです。

SX-9のメモリバンド幅の256GByte/secという数字で「ああ、ここは地球シミュレータ(ES)と同じか」なんて思ってたら、全然違いました。ESの256GByte/secは「ノード内のプロセッサとメモリの総バンド幅(16GByte/sec×16CPU)」ですから、SX-9でいうとこの数字は4TBytes/sec(256GByte/sec×16CPU)という数値になります。それに加えノード間通信幅128Gbyte/secというのも本当に途方もない性能です。数多くのノードで大規模なシミュレーションになればなるほど、ボトルネックが細いと、ノード間の通信が増えれば増えるほど急激に計算性能がガタ落ちしますから、カタログスペックではなく、実際に使用するときの使いやすさで言えば、「ピークが高い」よりも「性能が落ちにくい」方がありがたいのではないでしょうか。

また、NEC執行役員の方は「現時点で世界一」をぶち上げたようです。

スパコン性能比較サイト http://www.top500.org/ によれば、現在の世界一はこれ。

BlueGene/L
http://www.top500.org/system/performance/7747

理論性能(Rpeak) 367000 GFlops(367TFlops)
実効性能(Rmax) 280600 GFlops(280.6TFlops)

NECの新型機は、512ノードつなげれば、理論性能で倍スコアで乗り越えるという触れ込みですから、確かにNEC執行役員のおっちゃん曰くの「現時点で世界最速」ということにはなります。ぜひともそれを証明するために実際に512ノードつなげてLinpackを走らせてみて欲しいものです。

NEC SX-9の誕生が意味すること

今回のNECの新型スパコンの発表は、「世界一のスパコンの座を日本が奪い返しました」という意味には決して留まりません。
今現在、世界のスパコンは「スカラパラレル」が主流ですです。恐ろしく単純に言うと「数は正義、数は力」という考え方ですね。先ほどのBlueGene/Lなんかは、131072プロセッサというとんでもない桁の数のプロセッサを使っています。

一方、SX-9はベクトル機と言われるもので、こちらは「帯域こそ力」という方針を取っています。できる限り高速に演算するために、ベクトルレジスタと呼ばれる特殊なレジスタと、レジスタに大量高速にデータを出し入れできる仕組みを兼ね備えた、全く設計思想が異なる計算機になります。この技術を第一線で持っているのは、世界でNECだけでしょう。

ただ単に高速な計算機が欲しいなら、ぶっちゃけた話IBMからBlueGeneを大量に購入すればいいのです。そのほうが「開発の手間」も掛からず、計算スケールにあわせた予算を組め、またメンテナンスもIBMがバッチリやってくれることでしょう。

しかし、日本は、NECは、日本独自どころかNEC独自とすらいえる「ベクトル計算機」の方向で力を上げ、勝負をしてきています。こういう「世界の潮流にあえて逆らい、独自の技術で対抗する」ということは、極めて大切なことだと思います。しかも「独自性」に逃げることなく、きちんと相手に対抗する結果を叩き出すというのは大変素晴らしいことです。

地球シミュレータの登場は、アメリカのスーパーコンピュータ業界にショックを与えたそうです。アメリカが捨てた技術を日本が磨き上げ、その技術でアメリカの技術をぶっちぎる結果を叩き出しただけではなく「科学技術の新しい地平そのものを切り開いた」、そこを評価されたんだそうです。その後アメリカは猛追に入り、地球シミュレータを抜き去り、ついにBlueGene/Lまで到達しています。2, 3年後にはさらに性能の「桁」を上げてくるでしょう。
そいて、「地球シミュレータ」のノウハウを脈々とつないだNECが、ついにBlueGene/Lを凌ぐ性能を垣間見せてくれています。

白洲次郎さんのご夫人である白洲正子さんの名言に、このようなものがあります。

本当に国際的というのは、自分の国を、或いは自分自身を知ることであり、
外国語が巧くなることでも、外人の真似をすることでもないのである。

「他では真似のできない日本独自の技術」できっちりと成果を出してきたNECの仕事は本当に素晴らしいことだと思います。ちゃんと「日本でも自分で作れる」というベースがあってこそ、真に海外のものに対抗できるのでしょうね。